9月6日(金)に「メンタルヘルス学習会~休職者の職場復帰における基礎知識と実践例を学ぶ~」と題して例会を行いました。
東海法労は過去に何度かメンタルヘルスに関する学習会を行っており、今回はタイトルどおり、職場復帰に焦点を当てました。講師は、NPO法人「愛知働くもののいのちと健康をまもるセンター(略称:健康センター)」事務局次長で、産業カウンセラーの資格も持つ高垣英明さん。資格は5年前に高校教師を退職したのちに勉強して取得されたそうです。
冒頭、高垣さんからは、「今日は職場復帰がテーマに掲げられているが、現実にはメンタル疾患によって休職した労働者のうち4割くらいしか職場に復帰できていない(という前提を押さえておく必要がある)」との指摘がありました。基礎知識に加えて実践例もお話ししていただきたいとの要望に応え、過去に実際に携わった事例を幾つか紹介していただきましたが、その中には、最終的に本人が自殺した例もあり、この問題の重さを再認識するところから始まりました。自殺してしまった例の中では、①運輸関係の仕事に就いていた方で、長時間、閉じた空間の中でパワハラ加害者と一緒にいて逃げ場がなかった、②休職が長期におよび、就業規則によって退職となる取扱いになっていたところ、退職はしたくないとの思いで無理に復職をして、結局メンタルを悪化させてしまった、というポイントが語られました。模範的な成功例も紹介されましたが、それは高垣さん自身が携わったものではなく、実際に休職と復職を経験された方ご自身の講演会で聞いた内容であるとのことでした。その例では、本人自身がメンタル問題を学生に教える立場であったことから、自身の疾患に対する十分な知識があり、また、職場や家族も一定の知識や理解があったため、スムースな流れが作れ、成功につながったとのことでした(しかしそれでも、復職までではなく、復職してからが本当に大変だったのだという話のようです)。その他、高垣さん自身が現在支援している事例の一つとして、仕事中の重大な事故による傷害ののち、PTSDを発症。身体、精神ともに労災が認められ、復職に向けて取り組んでいる矢先に会社の偽装倒産工作があり、当事者がユニオンに加入して団体交渉も並行させているというものが紹介され、複合的な問題に対して様々な運動団体が連携して取り組んでいくことの重要性も確認しました。
高垣さんは、仕事が原因で起こった精神疾患は「心の労働災害」であり、労災申請をすべきだと強調。平成30年度の労災認定者数(精神疾患)は465件と少ないが、認定に至るまでの困難さもあれど、まず申請数が少ないことを指摘しつつ、自分の周りにいる人が仕事が原因の精神疾患になったら、「迷わず健康センターに連れてきてほしい」と訴えられました。前後しますが、いま日本社会でどれだけの労働者がメンタル不調に陥っているかということを捉えようということで、全労働者を5000万人と仮定し(実際にはもっと多いですが)、過去3年間にパワハラを受けたことがあるかとの調査に「ある」と回答した人の割合32.5%(平成28年度「パワハラ実態調査」より)をかけ、さらに、パワハラを受けた人の8割がメンタル不調に陥っているという調査結果をかけると、1300万人(!)の労働者がメンタル不調になっているという試算を示されました。
5000万人 × 32.5%(パワハラ被害経験)× 8割 = 1300万人
さて、復職にあたっては、何よりも職場ごとの「職場復帰支援プログラム」が作られるべきですが、プログラムがあっても機能していない場合も少なくなく、職場や家族、自分自身の無理解が起因しているとのことです。(例えば、会社側が「100%治ったという診断書を出せ」と無茶な要求をしてきたり、パワハラ加害者を放置する一方で被害者を別の部署に異動させたり、あるいは、休職者自身が自分の判断で病院通いや服薬を止めたり、医師に対し「完治したという診断書を書いてくれ」と無理を言ったり・・・)
ここで高垣さんは、学習会のテーマに立ち戻りつつ、しかし「復職が1番大事なのではない」「命や健康、家族こそが大事」と強調し、前段の例も引きながら、復職の失敗が自殺の引き金になることの懸念を語られました。
そして、「精神科医の選択」の問題に言及。精神科医の中には、残念ながら、職場で起こるメンタル疾患や労災問題のことを知らない人が多くいるとのことです(「労災指定の精神科医が圧倒的に少ない」と)。また、主治医と産業医の密接な連携が重要であるとも指摘されました。
最後に、高垣さんは「家族や同僚にメンタル不調者が出たらどうするか」と投げかけました。究極には、「出たらどうするか」ではなく、“予防”の考え方が大事だとしながら、やはり大事なのは「学ぶこと」であると。事業者の法的責任、国が策定している指針、職場復帰の実践例(成功例、失敗例)、労災補償制度、精神医学の基礎、心の健康づくり、そして傾聴法・・・と、高垣さんのレジュメに列挙されている項目だけでもたくさんありますが、今回のような学習会を繰り返し行っていくことや、実際に身近に起こったときに真剣に向き合っていくことが大事だと改めて認識した学習会でした。
メンタル問題は全ての労働者の課題でもあります。組合として、未組織の方も意識しながら、引き続き取り組んでいきます。
(組合員Kより)